文化リレーコラム・Mature紀行①ブリストル:英国

旅に思いを馳せるとなると一過言おありの方々が多いでしょう。

本リレーコラム“Mature紀行”では歴史や文化を通じて旅をしたいといった方々に古今東西、時空の旅をお届けしたく、紀行談を語ってまいります。

この夏、8週間ほどブリストルに滞在する機会に恵まれました。およそ170kmロンドンの西側にあるこの古都はローマ時代から街が、産業革命までは英国第2の都市であったという。まさに英国最盛期に栄えたこの港町は日本人だけが知らない、世界中が知っている凄まじい歴史を経ていました。

この街は蒸気機関車や蒸気船で産業革命を牽引しインド、オーストラリア、ニュージーランド、香港など世界にまたがる大英帝国への発展に大きく貢献しました。英国を代表する画家ターナーの傑作「雨、蒸気、速度–グレートウェスタン鉄道」はブリストルからロンドンへむかう当時最先端の蒸気機関車であり、霧の中を疾走する姿が産業革命の勢いを感じさせます。また世界初の鋼鉄の蒸気船SSグレートブリテン号(1843年進水)はイギリスからオーストラリアへ移民を運ぶのに利用されました。現在博物館として一般公開されている。その名の通り英国を代表する当時世界最大の客船の故郷はブリストルです。

窓から外を見ている

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◾️1844英国/『雨、蒸気、速度―グレートウェスタン鉄道』ウィリアム・ターナー

ロンドンナショナルギャラリー所蔵:筆者撮影

港に停泊している船

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◾️1843進水/SSグレートブリテン号博物館:.筆者撮影

◾️ブリストルが誇る二人の偉人、技術士ブルネルと商人コルストン。

これらの鉄道車両、橋を設計し、蒸気船を建造したブリストルの技術士ブルネルは2002年BBCがおこなった「百人の最も偉大な英国人」の投票で第2位となっています。

19世紀ビクトリアン英国の圧倒的財力・技術力が世界を支配しようとしていました。その一世代前、19世紀の初頭まで英国に莫大な財をもたらしていたのがブリストルを中心に行われていた三角貿易。17世紀より行われた製品・武器(英国→)奴隷(アフリカ→)資源(アメリカ→)の3角貿易は産業革命の基盤になったともいわれ歴史の栄光かつ悲惨な人種差別を物語ります。18世紀には50万人以上のアフリカ人がブリストルの商人により取引されたともいわれています。なんと、これもまた歴史。19世紀初頭に奴隷貿易が禁止され、工業都市リバプールやマンチェスターに経済競争で負けるまではブリストルは英国の中心的都市でした。その後ブリストルの繁栄は徐々に失われていった、ゆえに日本人はこの街に馴染みが薄いのでしょうか。

17世紀末この奴隷貿易を率先して行った商人コルストンはブルネルに並ぶブリストル市民の誇りでもありました。教会や学校をつくるなどの福祉事業に精力的におこなった慈善事業家でもあったといいます。つまり奴隷貿易が悪いという認識はなく国を豊かにするためにやっていたのだと。 いまブリストル市民は猛然と悔い改めています。人種差別についての暴動、決起集会などさまざまな困難もへて自由な開かれた街をめざして市民は歩んでいます。3年前、コルストンの銅像がブリストル港に投げ込まれ、世界中の話題となりました。ブリストル市民は私に話してくれました、「もし人種差別という概念があったなら、彼は三角貿易をやっていただろうか」、答えは「絶対NO!」だと。歴史の功罪をかみしめて・・。

東京文化LC
会長 L城戸正幸

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